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今週のドラマの余白 Vol.1|2026年秋ドラマ3作品に見る「守るという選択」

週刊コラム今週のドラマの余白VOL.1の表紙。3作品の見出しと守ることの難しさを表した雑誌風アイキャッチ 今週のドラマの余白

こんにちは、nanaです。

秋の新ドラマが始まると、見慣れた俳優さんがまったく違う人物として現れたり、何気なく見始めた作品に思いがけず心をつかまれたりします。まだ結末を知らない第1話には、これから起こる出来事への期待と、登場人物の何気ない言葉や表情から、その人の人生を想像する楽しさがあるんですよね。

今週、気になったのは『俺たちの箱根駅伝』『kiDnap GAME』『妻を引退します』の3作品。箱根駅伝を届けるテレビマン、妻を誘拐された刑事、夫の裏切りを知った元女優と、描かれる世界も物語の雰囲気も違いますが、どの作品にも、それまで大切にしてきたものが揺らぐ瞬間がありました。

今回は10月5日から11日までに放送された第1話のなかから、特に印象に残った場面を振り返りながら、そこに見えた人物の思いをたどっていきたいと思います。

※以下、各作品の第1話の重要な展開に触れています。

『俺たちの箱根駅伝』|走る学生たちを主役にするということ

箱根駅伝を描いたドラマと聞けば、選手たちが必死に襷をつなぎ、仲間の待つゴールへ向かう姿が思い浮かびます。ところが、10月10日放送の『俺たちの箱根駅伝』第1話で興味をひかれたのは、走る学生たちの姿と同じくらい、その一瞬をテレビで届けようとする人々の仕事でした。

大日テレビのチーフプロデューサー・徳重亮(大泉洋)は、箱根駅伝の中継に強い思いを持っています。彼が大切にしているのは、走る学生たちが主役であり続けること。スタッフも解説者も、その時間を伝えるために存在するという考え方ですが、テレビ局の上層部は視聴率を高めるため、従来の中継にバラエティーの要素を加えようとします。

より多くの人に駅伝を見てもらいたいという発想は、テレビ局の立場からすれば理解できるもの。それでも徳重が簡単には受け入れられないのは、演出が変わることそのものより、中継の中心に置くべきものが変わってしまうからではないでしょうか。

その思いを重ねて見たくなるのが、3年ぶりの箱根駅伝本選出場を目指す明誠学院大学の予選会です。

ケガから復帰した4年生エース・青葉隼斗(小林虎之介)には、監督や仲間たちの期待が集まっています。実力を発揮できれば本選出場も見えてくる状況でしたが、レース終盤、チームは思いがけない厳しい展開に直面します。

青葉にとって、同じ仲間と箱根を目指せる時間は残りわずか。ケガで走れなかった日々もあれば、復帰を信じて待ってくれた人たちの思いもあり、予選会には一度きりのレースという言葉では片づけられない重さがあるのでしょう。結果は順位やタイムで示されても、そこへ至るまでの一人ひとりの時間まで、数字に残るわけではありません。

徳重が守ろうとしているのは、まさにその数字の向こう側にあるものなのだと思います。選手がどんな思いでスタートラインに立ち、どんな時間を積み重ねてきたのか。画面に映る数秒の走りに、そうした背景があることを知っているからこそ、彼は学生たちの姿を余計な演出で覆いたくないのでしょう。

駅伝の予選会に挑む細身のランナーの足元を正面から捉えた写真調イメージ

ただ、徳重自身もまた、別の場所で戦っています。学生たちが本選出場を目指して競い合う一方、彼はテレビ局という組織のなかで、自分の信じる仕事を続けられるかどうかを問われているのです。

上司の方針に逆らえば、徳重一人の問題では済まないでしょう。一緒に中継を作る宮本菜月(伊藤沙莉)たちの立場にも影響するかもしれませんし、番組を成功させたいという思いは、上層部も徳重たちも変わらないはず。それでも意見がぶつかるのは、何をもって成功と考えるのか、その答えが違っているからなのでしょうね。

スポーツ中継を見ていると、私たちは走っている選手の姿を夢中で追いかけます。けれど、その一瞬を逃さずに届けようとする人々にも、長い準備の時間と譲れない思いがある。普段は画面の外にいる彼らの姿を知ることで、見慣れた駅伝の景色まで少し違って感じられました。

さらに、かつて明誠学院大学のエースとして箱根を走った甲斐真人(山下智久)が、18年ぶりに戻ってきます。走る側の時間を知る彼が、今の学生たちや徳重とどのように関わっていくのか。選手と中継スタッフ、それぞれの思いが交わっていく先を見届けたくなる第1話でした。

『kiDnap GAME』|結婚記念日の花束に残された、夫婦のすれ違い

10月6日に始まった『kiDnap GAME』は、アジア7都市で同時に発生する誘拐事件を描いたサスペンスです。大切な人を奪われた7人が、10日間という期限のなかで犯人からの指令に挑むという設定には、始まりから息苦しいほどの緊張感がありますが、第1話を振り返ると、私の心に強く残っていたのは大規模な事件そのものより、その直前にあった夫婦の小さなすれ違いでした。

主人公の新出敏郎(坂口健太郎)は、強い正義感を持つ刑事です。犯人を逮捕するためなら危険を顧みない一方、怒りに流されそうになる彼を支えてきたのは、妻の沙織(桜井ユキ)が伝えてくれた、優しさを忘れないでほしいという言葉でした。

新出にとって沙織は、帰る場所であると同時に、自分の正しさを見失わないための支えでもあったのでしょう。

そんな彼に、念願だった警視庁捜査一課への異動が決まります。仕事に打ち込んできた新出にとっては、ようやく努力が認められた喜ばしい出来事ですが、その一方で沙織は、子どもを授かりたいという願いを夫に切り出せずにいました。

夫は仕事で新しい一歩を踏み出そうとしているのに、妻は二人のこれからについて話し始めることさえできない。互いを大切に思っていないわけではないからこそ、この小さな距離が切なく感じられます。新出の喜びを知っている沙織には、自分の願いを伝えることで、その気持ちに水を差してしまうようなためらいもあったのかもしれません。

二人の結婚記念日は、東京の街が祭でにぎわう日でした。帰宅したら一緒に花火を見ようと約束していたものの、新出は警備や残業に追われ、帰りが遅くなってしまいます。それでも花束を買って家へ向かう姿には、忙しい毎日のなかでも妻との記念日を大切にしたいという思いが感じられました。

花束だけが残された夜のリビングと窓の外の花火を描いたイメージ

けれど、ようやく帰り着いた家に沙織の姿はなく、そこには赤いバラの花びらだけが残されていました。

新出の手にある花束は、これから妻に渡すつもりだったもの。今日という日を一緒に祝うために用意した花が、渡す相手のいない家で行き場を失ってしまう。その一方で、室内に残された赤い花びらは、それまで当たり前に続いていた暮らしが突然断ち切られたことを知らせています。

同じ花でありながら、片方にはこれから始まるはずだった幸せがあり、もう片方には失われてしまった日常がある。その対比を見ていると、沙織が夫に伝えられずにいた願いまで、いっそう切なく思えてきます。

新出は妻を愛していたのでしょうし、花束を用意した気持ちにも嘘はなかったはずです。ただ、相手を大切に思うことと、その人が胸の内に抱えているものを知っていることは、必ずしも同じではありません。

もし事件が起きなければ、二人は花火を眺めながら、これからの暮らしについて話すことができたのでしょうか。それとも、楽しい記念日の夜を過ごしたあとも、沙織は自分の願いを言い出せずにいたのでしょうか。

そんなことを考えたくなるのは、この作品が誘拐事件の恐ろしさだけでなく、事件によって奪われた何気ない日常にも目を向けさせるからだと思います。

やがて物語は東京からソウル、シンガポール、バンコクなどへと広がり、新出は妻を取り戻すため、犯人が仕掛けたゲームへの参加を迫られていきます。これまで刑事として人を助ける側にいた彼が、今度は大切な人の命を握られ、相手の要求に従わなければならなくなるのです。

正しいことをするのが当然だと信じてきた新出にとって、その状況は自分自身の信念を試されるものになるのでしょう。沙織が伝えてきた優しさという言葉を、極限の状況でも持ち続けられるのか。そして妻を取り戻したとき、これまで聞けずにいた彼女の気持ちにも向き合えるのか。

華やかな花火の日に始まった事件には、サスペンスの緊張感とともに、すれ違っていた夫婦の時間をもう一度見つめ直す物語も隠されているように感じました。

『妻を引退します』|穂奈未は、なぜもう一度芸能界へ戻るのか

10月5日放送の『妻を引退します』は、夫の裏切りを知った女性が復讐へ向かう物語です。芸能界を舞台にした華やかで波乱の多い展開も気になりますが、第1話で私が心を引かれたのは、主人公の鮎川穂奈未(朝日奈央)が、もう一度、自分のいた世界へ戻ろうとする決意でした。

穂奈未は、かつて天才子役として活躍していた女性。結婚を機に芸能界を引退し、夫の蓮也(犬飼貴丈)と娘の美由との暮らしを大切にしてきました。

その美由が、人気女優の泉舞花(新川優愛)とのCM撮影中に事故に遭い、入院することになります。

穂奈未にとって、娘が芸能界で仕事をすることには、もともと複雑な思いがあったのではないでしょうか。自分自身が子役として活動してきたからこそ、華やかな世界の楽しさも、そこで仕事を続ける厳しさも知っているはず。娘に夢を持ってほしいという願いの一方で、同じ世界で傷ついてほしくないという思いがあったとしても、不思議ではありません。

しかも、娘の子役デビューを勧めたのは夫の蓮也でした。

芸能事務所の副社長として仕事に関わる夫なら、娘を支えてくれると信じていたのかもしれません。ところが事故の背景を探るうちに、その夫の不倫が関わっていたことを知ってしまいます。

娘が傷ついたことだけでも耐えがたいのに、頼るはずだった夫が、疑わなければならない相手に変わってしまう。穂奈未にとっては、夫婦の信頼を失うだけでなく、家族のために選んできた暮らしそのものが崩れていくような出来事だったのでしょう。

ここから彼女が選ぶのは、夫に説明を求め、家庭のなかで答えを待ち続けることではありません。自ら芸能界へ復帰し、自分の力で真実を確かめようとするのです。

開いた楽屋の扉から明るいメイクルームと衣装が見えるイメージ

この決断を見ていると、穂奈未が取り戻そうとしているものは、夫に奪われた幸せだけではないように感じます。

芸能界を引退したからといって、そこで培った経験や、演じることへの感覚までなくなったわけではありません。家庭を大切にしてきた時間も、女優として過ごしてきた時間も、どちらも穂奈未自身の人生であり、そのどちらかを否定しなければ前へ進めないわけでもないのでしょう。

ただ、結婚後の彼女は、妻であり母親であることを中心に暮らしてきました。その生活に幸せを感じていたからこそ、夫の裏切りを知ってもなお、簡単には気持ちの整理がつかないはずです。それでも娘の事故の真相に近づくためには、夫の言葉を待つのではなく、自分から動かなければならなかったのでしょう。

「妻を引退します」という言葉には、夫の裏切りを許さないという強い怒りが感じられます。けれど私は、その言葉を、妻という役割から離れて、もう一度自分の人生を自分で選ぼうとする宣言としても受け取りたいのです。

穂奈未は、裏切られたことで突然強い女性に変わったわけではないのかもしれません。もともと自分の力で道を切り開いてきた人が、家庭を守るために別の生き方を選び、その暮らしが揺らいだ今、再び自分の力を必要としている。彼女の復帰には、そんな時間のつながりが感じられました。

ただ、これからの穂奈未には、難しい選択も待っていそうです。

娘のために真実を知りたいという願いと、夫やその相手への怒りは、必ずしも同じ方向を向くとは限りません。復讐が進むにつれて、最初に何を守ろうとしていたのかを見失ってしまうこともあるでしょう。

さらに泉舞花との間には子役時代からの因縁もあり、かつて同じ世界にいた二人が大人になって再び向き合うとき、過去の出来事がどんな意味を持つのかも気になるところです。

夫の裏切りに決着をつけたあと、穂奈未はどんな人生を選ぶのでしょう。復讐の行方も気になりますが、私はそれ以上に、彼女が誰かの妻という立場を離れた先で、自分自身をどう取り戻していくのかを見ていきたいと思いました。

3つの第1話を見て、心に残ったこと

今週取り上げた3作品は、駅伝を描く群像劇、国境を越えたサスペンス、芸能界を舞台にした復讐劇と、それぞれまったく違う魅力を持っています。

けれど、印象に残った場面を振り返ってみると、そこには大切なものを守ろうとしながら、思いがけない選択を迫られる人々の姿がありました。

『俺たちの箱根駅伝』の徳重は、走る学生たちを主役にしたいと願い、『kiDnap GAME』の新出は、妻を奪われたことで、これまで信じてきた正しさを試されることになります。そして『妻を引退します』の穂奈未は、娘を守るために、かつて自分が離れた芸能界へ戻ろうとしています。

それぞれの思いに共通するものはあっても、3人が選ぼうとしている道は同じではありません。

徳重は自分が前に出るのではなく、学生たちの姿を届けることに意味を見いだしています。一方の新出は、妻への愛情がありながら、彼女が胸の内に抱えていた願いを十分に知らないまま、突然その存在を奪われてしまいました。穂奈未の場合は、家族を守ろうとするからこそ、それまで大切にしてきた家庭の形を変えなければならなくなります。

誰かを大切に思う気持ちがあっても、その思いがどんな行動につながるのかは、人によっても置かれた状況によっても違うのでしょうね。

ランナー、花束、楽屋を紹介した雑誌の見開きに守るという選択の文字を置いた画像

こうした人物の選択を見ていると、以前取り上げた『Nのために』の人物たちも思い出します。誰かを守りたいという思いが、必ずしも相手の望む結果につながるとは限らない。それでも人は大切な誰かのために何かを選び、その選択によって、それまで見えていなかった気持ちが少しずつ明らかになっていくのかもしれません。

今週の3作品で私の記憶に残ったのは、予選会へ挑む学生たちの時間、妻に渡されるはずだった花束、そしてもう一度芸能界へ戻ろうとする穂奈未の決意でした。

どれも第1話では、まだ答えが出ていない場面です。これから物語が進み、登場人物たちの選択が新たな出来事につながったとき、最初に見た景色もまた違って映るのでしょう。

あのときの言葉には、こんな思いが隠れていたのかもしれない。何気なく見ていた場面が、あとから心に残る場面へと変わっていくのも、ドラマを追いかける楽しさの一つですね。

今週のドラマの余白は、ここまで。

次の週も、その一週間に放送されたドラマのなかから心に残った作品を選び、印象的な場面や人物の思いをたどっていきたいと思います。


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今週のドラマの余白
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