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『相棒 season25』PMクライシス考察|総理の秘密と犯人の真相、右京が守った正義

こんにちは、nanaです。

※この記事は『相棒 season25』第1話「PMクライシス~総理の秘密と密約の罠」、第2話「PMクライシス~幻の犯人と総理の告白」の重要な展開と結末に触れています。未視聴の方はネタバレにご注意ください。

総理補佐官を殺害したと認めた男に、杉下右京はある質問をしました。犯人が身につけていた襦袢の合わせ方についてです。男はその説明を受け入れ、犯行に込めた覚悟まで語ります。ところが、右京が示した合わせ方は、実際とは逆でした。

自分が犯人だと認め、証拠も残されている。それなのに、なぜ右京はその自白を疑い続けたのでしょうか。『相棒 season25』の「PMクライシス」を振り返ると、私には、この小さな食い違いが事件全体を象徴しているように感じられます。

現職の総理大臣が抱える秘密、何者かによって作られた拉致映像、外交上の贈り物に隠された盗聴器。目の前に示されたものをそのまま信じていれば、真相にはたどり着けない事件でした。そして、右京が疑い続けたことで明らかになったのは、犯人の正体だけではありません。自分の立場を守るために秘密を抱え続けた総理と、その秘密によって人生を左右された人々の姿でした。

この記事では、「PMクライシス」前後編の事件をたどりながら、仲井戸殺害の真相、溝口総理が隠していた「ORIGAMI」の秘密、そして右京と亀山薫がそれぞれの立場から守ろうとしたものを考えていきます。

この記事でわかること

まず、この記事で押さえておきたいポイントを4つにまとめます。

  • 門田哲也の自白を右京が疑った理由と真犯人
  • 溝口総理が隠していた「ORIGAMI」の秘密
  • 光屋の失踪、偽動画、盗聴器がつながる事件の真相
  • 右京の正義と亀山薫の教え子が残した物語の余白

自白した男を、右京だけが疑った

総理補佐官・仲井戸秀敬が殺害された事件で、捜査一課が逮捕したのは「小鼓さん」と呼ばれる男でした。本名は門田哲也。かつて仲井戸から見下されたことへの怒りを抱いていたという門田は、取り調べで犯行を認めます。しかも、証拠を燃やそうとして失敗したという衣服まで見つかり、被害者のDNA型も検出されました。

犯人が自白し、その言葉を裏づける証拠もある。捜査が終わりに近づいているように見えても不思議ではありません。それでも右京は、門田の行動を不自然に感じていました。天候を気にして暮らしていた人物が、雨のために証拠を燃やし切れなかったと説明することも、防犯カメラに映る場所で野宿していたことも、犯行を隠したい人物の行動としては腑に落ちなかったのです。

門田の話には、どこか自分を犯人だと信じさせようとするようなところがありました。もちろん、犯行後に冷静な判断ができなくなる人もいるでしょうし、不注意から証拠を残してしまうこともあります。ただ、右京は一つひとつの説明を切り離して考えず、それらが同じ人物の行動として自然につながるのかを見ていたのでしょう。

その疑問が、襦袢の合わせ方をめぐる質問へとつながります。右京と薫は、犯人が着ていた襦袢について、実際とは逆の合わせ方を門田に伝えました。すると門田は、その誤った説明を否定せず、殺人に臨む覚悟を表したかのように答えます。本当に自分が着ていたのであれば、見せられた情報との違いに気づいてもおかしくありません。門田は犯行の事情を知っているように振る舞いながら、肝心なところでは自分自身の記憶を持っていなかったのです。

この場面には、右京という刑事の魅力がよく表れていました。彼は門田が社会の中でどんな暮らしをしていたかという印象だけで、犯人だと決めつけません。自白があっても、証拠があっても、そこに疑問が残るなら確かめようとします。相手が何を語ったのかだけではなく、なぜそのように語ったのかまで見つめているのでしょう。

やがて、門田が殺人の罪を引き受けるよう持ちかけられていたことが明らかになります。日々の暮らしに限界を感じていた彼は、他人の罪をかぶるという話に乗っていました。そこには当然、捜査を妨げた責任があります。それでも、生活に行き詰まった人間を選び、自分たちの犯罪を隠すために利用しようとした者たちの存在を考えると、門田をただの嘘つきとして片づけることはできません。

門田が自白したまま事件が終わっていれば、本当に人を殺した人物は責任を逃れ、仲井戸が命を奪われた理由も分からないままでした。右京が守ろうとしたのは、門田一人のための正義というより、誰かの都合で真実が別のものに置き換えられてはならないという、刑事としての譲れない姿勢だったのだと思います。

襦袢の合わせ方と門田の自白に残る矛盾を象徴する写真

亀山薫の教え子から始まった物語

今回の事件は、総理補佐官の殺害という大きな出来事だけで始まったわけではありません。もう一つの入口にあったのは、亀山薫と妻の美和子のもとへ届いた、懐かしい教え子からの連絡でした。

日本に留学しているラ・ミン・タンダーは、かつて薫と美和子がサルウィンで設立した学校の一期生です。昔の先生にもう一度会いたいと願い、大学の研究室で働く光屋大二郎の助けを借りて、ようやく薫の連絡先にたどり着きました。年月を経て成長した教え子と再会できたことは、薫たちにとってうれしい出来事だったでしょう。

ところが、再会を喜ぶ時間のなかで、ミンは故郷の厳しい現実も語ります。一度は民主化へ向かったサルウィンは再び軍事政権のもとに置かれ、民主化運動に関わった兄のトゥーラも軟禁されていました。家族と自由に連絡を取ることさえ難しいという話を聞いた薫には、かつて自分たちが暮らし、子どもたちと向き合った土地が、今も苦しい状況にあることが身近に迫ってきたのではないでしょうか。

薫にとってサルウィンは、単なる赴任先や旅先ではありません。刑事という仕事を離れ、そこで暮らす人々と同じ時間を過ごした場所です。昔の教え子が助けを求めるように連絡してきたなら、放っておくことなどできないでしょう。薫の人情深さは『相棒』のなかで何度も描かれてきましたが、今回の再会には、その人柄を懐かしく思わせるものがありました。

そして、ミンが薫の連絡先を探す手助けをした光屋が、やがて総理の秘密に関わる人物として浮かび上がります。親切な大学助手だったはずの男は、溝口総理について重大な情報を握り、週刊誌に持ち込もうとしていました。さらに、その光屋が姿を消したことで、総理補佐官の殺害事件と、ミンを通じて始まった特命係の調査がつながっていきます。

私が興味深く感じたのは、右京と薫が同じ事件に向き合いながら、そこへ至る道筋が違っていたことです。右京は総理補佐官の死と情報漏洩の不自然な関係を追い、薫は昔の教え子とのつながりから、光屋という人物に関わることになりました。一方は事件の矛盾を見つめる冷静な目であり、もう一方は知っている誰かを心配する気持ちです。その二つが重なることで、国家を揺るがす事件が、私たちにも身近な人間の物語として見えてくるのでしょう。

10月21日の第1話については、週刊コラム「今週のドラマの余白 Vol.3」でも薫と教え子の再会を取り上げました。前編の時点ではまだ分からなかった事件の全体像が、後編で明らかになった今、あの再会の意味も少し違って見えてきます。

亀山薫と教え子の再会を象徴する秋の大学キャンパス

光屋の失踪と偽りの拉致映像

総理の秘密を週刊誌へ持ち込もうとしていた光屋大二郎は、何者かに狙われているような状況に置かれ、やがて行方が分からなくなります。右京と薫が光屋のパソコンを調べても、溝口総理の秘密に直結する情報は見つかりません。そんななか、右京のスマートフォンに、光屋が連れ去られる様子を映した動画が届きました。

人が拉致される場面を映した動画があれば、捜査にとって重要な手がかりになるはずです。ところが、土師太が調べた結果、その映像は生成AIによって作られたフェイク動画だと分かります。何者かが、光屋が連れ去られたという印象を与えるため、実際とは異なる映像を用意していたのです。

今回の物語では、証拠というものの危うさが繰り返し描かれています。門田には犯行を裏づけるような品が残され、光屋については拉致されたように見える映像が現れました。どちらも、最初に受け取った情報をそのまま信じていれば、別の方向へ導かれてしまいます。目に見えるものが必ずしも真実ではないという疑いが、事件のあちこちに潜んでいました。

ただ、光屋の映像が偽物だったからといって、彼が安全な場所で自由に暮らしているわけではありません。光屋がサルウィン大使館にいることが明らかになると、事件はさらに複雑になります。光屋自身は、溝口総理とハドリア大使館が仲井戸を殺害し、秘密を知る自分も狙われていると考えていました。その恐怖から、彼はサルウィンへの亡命を希望していたのです。

光屋が抱えていた疑いには、事実と異なる部分もありました。彼はハッキングによって総理の秘密を入手しており、自分の行為についても責任を問われる立場にいます。しかし、秘密を知った人間が殺されたという出来事を目の当たりにすれば、次は自分なのではないかと恐れる気持ちも理解できます。正しい方法で情報を手に入れたわけではない光屋が、今度は自分の命を守るために、必死になって逃げ道を探している。その姿には、単純に正しい人、間違った人と分けられない人間の弱さが見えてきます。

右京たちが用意したのは、光屋の不正アクセスに関する逮捕状でした。一見すると、命の危険を感じている人物を逮捕しにいくようにも見えます。ただ、サルウィンが軍事政権の国であることを考えると、亡命という選択が光屋にとって望ましい未来につながるとは限りません。彼が国外へ逃れようとする理由そのものを取り除くことができれば、事態は変わるはずです。

そのためには、光屋を説得するだけでは足りませんでした。彼が恐れている総理の秘密を、当の溝口自身が明らかにする必要があったのです。

光屋大二郎の偽の拉致映像を映したスマートフォン

杉下右京が総理のそばに置かれた理由

捜査が進むなか、杉下右京は期間限定で内閣官房参与に採用されます。普段は警視庁の特命係にいる右京が、現職総理の意見を聞き、直接ものを言える立場になるという異例の人事でした。その背景には国家情報局長・社美彌子の働きかけがあり、彼女がなぜ右京を総理の近くへ送り込もうとしたのかも、今回の見どころの一つだったと思います。

美彌子は、国家の安全保障に関わる組織を率いています。総理の秘密が明るみに出れば、政権だけでなく国全体に大きな混乱が生じるでしょう。組織の責任者である彼女には、政治的な影響や情報の扱い方について考えなければならない事情があります。目の前の事件を解決したいという思いだけで、すべてを動かせる立場ではありません。

だからこそ、美彌子が右京を選んだことには意味があるのでしょう。右京には、組織の都合を優先して疑問を飲み込むようなところがありません。相手がどれほど高い地位にいる人物でも、事実を確かめるためなら遠慮なく問いかけます。美彌子は、そんな右京の性格をよく知っていたからこそ、自分にはできないことを彼に託したのだと思います。

それは、右京が組織にとって扱いやすい人物だったからではありません。むしろ、どうしても譲れないものを持っているからです。政治や外交に関わる人々が、それぞれの責任や立場を考えて言葉を選ばなければならない場面でも、右京は事件そのものを見失いません。総理の秘密が国にとってどれほど重大であっても、仲井戸という人間が殺された事実は変わらないのです。

美彌子と右京の関係は、単なる協力関係とは少し違うように感じられます。美彌子は右京のやり方を理解し、その危うさも知っています。それでも今回は、彼が簡単には引き下がらないことに賭けたのでしょう。組織の中にいる者が、自分では越えられない一線を、あえて別の人物に越えさせようとする。その選択にも、彼女なりの覚悟があったのではないでしょうか。

右京が内閣官房参与になったからといって、彼自身が政治家のように振る舞うわけではありません。総理に近づける立場を得ても、そこで確かめようとするのは、これまでと変わらず事件の真相です。役職が変わっても、杉下右京という人間の根本は変わらない。そのことが、後半の総理との対峙でいっそう鮮明になっていきます。

内閣官房参与への任命を象徴する日本の応接室

総理の贈り物に隠されていた秘密

右京が溝口総理の執務室で突き止めたのは、ハドリア連邦の大使から贈られた品に盗聴器が仕掛けられていたという事実でした。それまで別々に見えていた出来事が、この小さな装置によって結びつきます。

溝口は、長年の盟友である仲井戸に自分の秘密を打ち明けていました。そして仲井戸は、その秘密を公表するよう勧めていたのです。二人の会話がハドリア側に知られたことで、秘密を明らかにしようとする仲井戸は危険な存在となり、殺害されることになりました。

高い支持を受ける現職総理の執務室は、国の重要な情報が集まる場所です。そんな部屋に置かれた外交上の贈り物が、会話を盗み聞きする道具になっていたことには、皮肉なものを感じます。表向きには友好関係を示す品でありながら、その内側には相手を監視するための仕掛けが隠されていました。

総理の秘密を知っていた人物が殺されたのは、溝口が誰かに話したからというだけではありません。その会話を盗み聞きし、秘密が明らかになることを恐れた者がいたからです。秘密を守るために誰かを排除するという判断が、仲井戸の命を奪うことにつながりました。

ここまで事件を追ってきた右京にとって、盗聴器の発見は単なる物証以上の意味を持っていたのでしょう。仲井戸がなぜ殺されたのか、門田がなぜ身代わりとして利用されたのか、光屋がなぜ身の危険を感じていたのか。それらを一つの筋道として理解できるようになったからです。

国の安全を守るために情報を集める行為と、自分たちの秘密を守るために人の命を奪う行為は、当然ながら同じではありません。それでも、国家の安全や国益という言葉が前面に出てくると、そこで何が行われたのかが見えにくくなることがあります。今回の事件は、政治的な立場や外交上の事情が複雑に絡み合うなかで、誰が何をしたのかを見失ってはいけないと伝えているようでした。

同じように国家の安全と個人の選択を描く作品でも、『VIVANT』にはまた違った問いがあります。『VIVANT』の別班と組織の正体を考えた記事を読み返すと、国を守るという目的が、どのような行動を正当化し得るのかという問題が、作品によって違う形で描かれていることに気づかされます。

贈り物に仕込まれた盗聴器を象徴する写真

溝口総理が明かした「ORIGAMI」の正体

溝口飛駒が長く隠していた秘密。それは、ハドリア連邦の情報機関に取り込まれ、情報を提供していたという過去でした。官僚から政治家へ、そして内閣総理大臣へと立場を変えても、その関係は続いていたのです。

彼に与えられていたコードネームは「ORIGAMI」。高い支持を集める総理大臣が、外国の情報機関に協力していた人物でもあったという告白は、劇中の日本に大きな衝撃を与えたでしょう。

ただ、私が心に引っかかったのは、総理の正体そのものよりも、溝口がなぜ長い間その秘密を抱え続けてきたのかということでした。

政治家としての立場が高くなるほど、過去の行動を明らかにすることは難しくなっていったはずです。秘密が知られれば、それまで築いてきた信用も、政治家としての人生も失うことになります。だからといって、隠し続けてよい理由にはなりません。むしろ、その秘密を抱えたまま国の重要な決定に関わっていたことが、溝口自身の責任をいっそう重くしているのだと思います。

仲井戸は、その秘密を打ち明けられた人物でした。長年の盟友だからこそ、溝口に真実を明らかにするよう勧めたのでしょう。政治家としての溝口を支えながらも、間違ったまま進み続けることを見過ごせなかったのかもしれません。秘密を知った仲井戸が亡くなったことで、溝口は自分の過去が別の人間の命にまで影響を及ぼした現実と向き合わなければならなくなりました。

溝口が自分の口で秘密を公表したことには、確かに大きな意味があります。それによって光屋が抱えていた疑いにも変化が生まれ、亡命を望む必要性も薄れていきました。自分の立場を守るために隠してきたことを明らかにし、その結果を引き受ける。ようやく溝口は、その選択をしたのです。

しかし、告白によって過去の責任まで消えるわけではありません。仲井戸は戻ってきませんし、長年にわたって外国へ情報を提供していた事実も変わりません。溝口が総理大臣と国会議員を辞する決意を固めたことは、責任を取る一つの形でしょう。それでも、辞職したからすべてが終わったと考えるには、あまりにも大きな出来事でした。

私は、溝口を潔い人物だと評価するだけでは、この物語の重さを受け止めきれない気がします。秘密を公表した決断は認められるとしても、もっと早く明らかにすることはできなかったのかという問いが残るからです。その間に彼が手にした地位や名声と、秘密を守ろうとする者たちによって奪われた命。その両方を知ったうえで見ると、溝口の告白は英雄的な行為というより、長く先延ばしにしてきた責任と、ようやく向き合った瞬間のように感じられました。

溝口総理の秘密公表を象徴する政府会見用演台

二通の逮捕状と右京が守った正義

今回、右京たちが用意した逮捕状は二通ありました。一通は、不正アクセスによって総理の秘密を入手した光屋大二郎に対するもの。もう一通は、仲井戸殺害に関与したハドリア大使館職員・能崎嘉志智に対するものです。

二通の逮捕状は、同じ事件に関わりながら、まったく違う立場にいる人物へ向けられていました。光屋は秘密を不正な方法で手に入れた人物であり、能崎はその秘密を守るために仲井戸の殺害に関わった人物です。光屋の行為にも責任はありますが、仲井戸の命を奪った事件と同じように扱うことはできません。

右京たちが光屋の逮捕状をサルウィン大使館へ持っていったことにも、事件を解決するための考えがありました。光屋は溝口とハドリア側が自分の命を狙っていると思い込み、亡命を希望していました。総理の秘密が公表され、身の安全への不安が取り除かれれば、光屋が大使館から出てくる道も開けます。その一方で、不正アクセスという行為については、きちんと責任を問わなければなりません。

右京の捜査には、相手の事情を理解しながらも、責任の所在を曖昧にしないところがあります。光屋が恐怖から逃れようとしていた事情を考慮することと、不正アクセスを見逃すことは違います。門田が生活に追い詰められていたことを理解することと、嘘の自白を許すことも同じではありません。相手を理解するからといって、何をしてもよいと考えるわけではないのです。

そして、仲井戸の殺害については、能崎を逮捕する必要がありました。ところが、ハドリア側は事件への関与を否定し、能崎の身柄を引き渡そうとしません。外交上の問題を考えれば、溝口が簡単に強硬な姿勢を取れないことも理解できます。秘密を公表したばかりの総理にとって、さらに外国との関係を悪化させる可能性のある選択は重いものだったでしょう。

それでも右京は、仲井戸の殺害事件を曖昧なまま終わらせようとはしませんでした。たとえ相手が外国の大使館に関わる人物であっても、殺人事件の責任を追及する必要がある。右京はその姿勢を変えず、溝口にも能崎の身柄引き渡しを実現するための行動を求めます。

溝口が外交上の強い措置を視野に入れた結果、能崎は逮捕されることになりました。総理自身もすべてを失いかねない状況で、最後まで事件の解決に協力する道を選んだのです。

この一連の流れを見ていると、右京の正義は、誰かを罰することだけに向けられているのではないと感じます。犯人ではない人物が罪をかぶったまま終わらないこと。不正な方法で情報を手に入れた人物にも、適切な責任を問うこと。そして、どれほど大きな組織の力が関わっていても、命を奪った人物を明らかにすること。右京は、それぞれの行為を混同せず、最後まで一つずつ向き合おうとしていました。

溝口の秘密が明らかになった時点で、事件はすでに十分大きな決着を迎えていたはずです。それでも右京がそこで捜査を終わらせなかったことに、私は強く心を動かされました。世間が注目する総理の失脚よりも、仲井戸が殺害された事実と、その責任を明らかにすることを優先しているからです。

権力を持つ人間にも、社会の片隅で暮らす人間にも、同じように真実を確かめようとする。右京が守ってきたものは、いつもそこにあるのでしょう。

光屋と能崎への二通の逮捕状を象徴するイメージ

亀山薫とミンの再会が残した余白

総理の秘密が公表され、能崎も逮捕されました。前後編を通して描かれた事件は解決しましたが、物語の最後には、もう一度ミンの存在が浮かび上がります。

彼女は、薫と美和子がかつてサルウィンで教えていた子どもでした。その子が成長し、日本で二人と再会したところから事件が始まったことを思うと、最後にミンの姿が描かれたことには、単なる再会以上の意味を感じます。

薫にとってサルウィンは、自分の人生のなかで大きな転機となった場所です。刑事として事件を追う毎日から離れ、異国で暮らす人々と向き合った時間がありました。日本に戻って再び右京と捜査を続けるようになっても、そこで出会った人たちとの関係は途切れていなかったのです。

ミンが昔の先生を頼って日本で連絡を取ろうとしたことにも、二人が築いてきた関係が表れています。困ったときに思い出す人がいるということは、それだけ相手を信頼しているのでしょう。薫と美和子にとっては昔の教え子であっても、ミンにとって二人は、今も自分の人生につながっている大切な存在なのだと思います。

『相棒 season25』では、亀山薫から神戸尊へのバトンタッチが公式に発表されています。いつ、どのような事情で薫が特命係を離れるのかは、現時点では明らかになっていません。そのため、今回のミンの再登場を、薫の去就に直接結びつけて考えることはできないでしょう。

ただ、薫がかつて選んだ生き方や、そこで出会った人々との関係が、今シーズンの初めに描かれたことは気になります。サルウィンで過ごした時間が、今の薫にどれほど大きなものを残しているのか。今回の再会によって、そのことを改めて思い出した人も多かったのではないでしょうか。

右京と薫は、同じ事件を追っていても、物事への向き合い方が違います。右京は目の前の情報を疑い、筋道をたどりながら真実へ近づこうとします。薫は、その先にいる人の顔や暮らしを忘れません。二人の違いはときに衝突を生みますが、事件を解決するうえで互いに欠かせないものにもなってきました。

今回の「PMクライシス」でも、右京は総理の秘密と殺人事件の真相に迫り、薫は教え子との関係を通してサルウィンという国の現実に触れています。総理や外国の大使館が関わる大きな事件のなかに、一人の女性が故郷の家族を心配する姿がある。その二つの世界を同じ物語として感じられたのは、薫がそこにいたからかもしれません。

事件は解決しても、サルウィンで暮らす人々の問題がすべて解決したわけではありません。ミンと家族の未来がどうなるのかも、まだ分からないままです。大きな事件が終わった後にも、それぞれの人生が続いていく。そんな当たり前のことを、今回の物語は最後に思い出させてくれたように感じます。

PMクライシスの結末を振り返って

「PMクライシス」という題名を見たとき、私がまず思い浮かべたのは、総理大臣の失脚や国家を揺るがす政治的な事件でした。実際に物語では、現職の総理が外国の情報機関に協力していたという衝撃的な秘密が明らかになります。総理の側近は殺害され、事件を隠すために別の人物が犯人として利用されました。

それでも、前後編を通して最も心に残ったのは、右京が門田の自白を疑ったところです。総理の秘密がどれほど重大であっても、目の前にいる男が本当に人を殺したのかという疑問を置き去りにしませんでした。そこから事件を調べ直したことで、仲井戸が命を奪われた理由と、その背後にいた人物たちの行動が明らかになっていきます。

溝口もまた、最後には自分の秘密を明かし、地位を手放す決断をしました。しかし、その告白がすべてを解決したわけではありません。仲井戸の死は取り戻せず、光屋が抱えた恐怖や、門田が利用された事実も消えることはありません。真実が明らかになった後にこそ、何が失われたのかを考えなければならないのでしょう。

そして、事件の入口にいたミンにも、これからの人生があります。薫が昔の教え子との再会を喜びながら、その故郷の厳しい現実を知ったように、人と人とのつながりには、事件が終わった後も続いていく時間があるのだと思います。

杉下右京は、これからも目の前にある小さな矛盾を見逃さず、真実を追い続けるのでしょう。その隣で亀山薫が、事件の向こうにいる人々を見つめてきた時間も、決して短いものではありませんでした。

二人が並んで歩く姿を、これからあと何度見られるのかは分かりません。だからこそ、今回の事件で見せてくれた、それぞれの変わらないところを大切に覚えていたいと思います。

政治の大きな秘密から始まり、一人の人間の自白の矛盾を経て、最後には昔の教え子とのつながりが残る。『相棒』が長く描いてきたのは、事件の真相だけではなく、その事件に関わった人たちが抱えるものなのだと、改めて感じた前後編でした。

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作品情報・参考資料

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